2010年北海道旅行
第4章 スペーシア

「北斗星」が到着した上野駅13番線の頭端付近にあるコインロッカーに北海道土産と使わない荷物を入れて身軽になった後、みどりの窓口に入って夕方の東海道新幹線の指定券を確保する。あらかじめN700系の列車を調べていたのだが、指定券の券売機でも喫煙席の選択ができないためすぐわかる。帰りのきっぷも取れたことだし、これから東武のスペーシアに乗ろうと思う。

先に私は鉄道のICカードを使ったことがないと書いたが、ユーザーの絶対数から福岡でも共通使用可などなにかと優遇されているJR東日本のSuicaをこの機会に購入しておこうと思う。地元のICOCAでも使えるし(オレンジカードが大量にあるので実際に使うのは先だろうが)。とりあえず券売機に2000円入れて保証金500円+チャージ1,500円のカードを手にする。

東京メトロ銀座線で東武のターミナル浅草駅に向かう。上野−浅草間は日本で最初に地下鉄が開業した区間である。関東私鉄のICカードPASMOの区間でもSuicaが使えるというのでさっそく試してみる。

地下鉄の駅といえば島式ホームが多いが、銀座線は対向式ホームばかり。浅草にはすぐ到着する。階段を上ると東武浅草駅の構内である。

スペーシアは11時00分に「きぬ111号」が出るのだが、10時50分発の区間快速で春日部まで先行する。別に特急料金をケチるためではなく、6050系にも乗りたかったからである。


6050系は日光・鬼怒川行きの快速に使われるクロスシート車である。ボックスシートなので転換クロスが珍しくない関西から見れば物足りないが、料金不要列車としてはまずまずの出来である。特筆すべきはそのカラーリングで、後から登場したスペーシアやJR485系直通車がこのカラーリングを真似たほどである。イメージアップのためボロ車が看板特急の色をまねる事はまれにあるが、真剣にデザインが検討される有料特急に既存の料金不要車両のまねをさせるのは前代未聞であろう(例えるなら151系「こだま」を湘南色にするようなもの)。その優れたデザインゆえ登場から四半世紀たった現在でも古さを感じさせないが、床下機器が半世紀前のもので老朽化が著しいのが気になります。しかも最近は会社のあからさまな特急誘導策で6050系快速が停車駅の多い区間快速になってスピードダウンしており、またマイカー利用の観光客が増えて日光・鬼怒川・南会津への鉄道利用が低迷していることもありテコ入れが期待しにくいところでもあります。

東武の快速・区間快速は急行(ロングシートの典型的な都市型通勤電車)より格上の列車で春日部までは特急と全く同じスピードで走ります。都市近郊の複々線区間の駅をことごとく通過して爆走するさまは京阪を連想してしまいます。しかし6両編成・クロスシートで輸送力がさほどない列車なのに車内はガラガラ。いくら平日昼間の観光列車とはいえ都市近郊の速達需要があってもよさそうなのですが。

30分ほどで春日部駅に到着。ホーム上の券売機で特急券を買い、後続の「きぬ111号」を待つ。昔は観光に特化してノンストップだった東武特急だったが、現在は停車駅を増やして日常の足として使えるようになっている。春日部駅もその増えた停車駅だが、浅草や北千住と違って中央改札がないため乗車口を2号車と5号車に限定して特急券をチェックしている。浅草から春日部まで短距離でももう降りる人がいる。

「きぬ111号」は東武の看板車両スペーシアを使用している。1994年に乗ったことがあるので今回16年ぶりに乗車する。いかにもバブル的な豪華車両だったが、すでに20年が経ってその後に登場したJR253系ですら廃車になる時代である。果たして印象はどう変わっているであろうか。


ブルーリボン賞を受賞した人気車両


車内はこんな感じ


バブル時代に流行ったプラグドア

これがスペーシアの座席です。「国鉄のグリーン車なみ」といわれた先代特急車DRCのスペックを受け継いでいます。グリーン車のシートピッチが1,160mmなのに対してこちらは1,100mmですが、グリーン車でも初期の特ロであるスロ51やJR初期の「ゆうトピア和倉」が1,100mmだったのでまあ間違ってはいないでしょう。JRから乗り入れる485系も新型座席を同じシートピッチで並べています。窓割が合いませんけど。

テーブルは肘掛内部と壁側にあり、観光特急らしく向かい合わせでもテーブルが使えるようになってます。昔はオーディオサービスがあったのですが現在は機器が撤去されています。スピーカーが座席に内蔵されていてJRみたいに車内で高いイヤホンを買う必要がなく良心的だったのですが。

座席そのものの座り心地は悪くありません。枕部分が左右に張り出しているため座ったまま寝てしまったときもちゃんと頭を支えてくれます。ただ足元が気になります。グリーン車を意識してフットレストがあるのですが、特に足が長いわけでもない私でも足が浮いてしまい膝にきます。またフットレストを跳ね上げることができないためどうしても足元が狭くなります。そのほかシートの厚さもあってか、シートピッチは新幹線の普通車(1040mm)の方があるように感じます。

その後車内を歩いたのですが、全体的な印象としては、バブル時代のクオリティに救われているとはいえ登場後20年が経過してさすがに内装がヘタっています。シートモケットや通路のカーペットは色褪せているようでした。錆びにくいアルミ車体に今後20年は使うでしょうからリニューアルを望みたいところです。仕様面は旧式化していないので内装の張り替えやVVVFインバーターの機器交換など老朽化対策だけで十分でしょう。

さて、ちょうど昼食どきでもあるのでビュッフェに行きます。

もともと小田急と同じシートデリバリーを想定して作られたため、新幹線のビュッフェのように食事ができるわけではありません。先月乗った「ゆふいんの森」と同様のテイクアウト方式でレンジ加熱品と生ビール以外はワゴンサービスでも買えます。レンジ加熱品から「炒飯」と「フライドポテト」を購入して自席に持ち帰ります。

ご覧のようにニチレイの冷凍食品です。業務用食品を扱う店で入手できそうですね… 電子レンジものの宿命で水分が気になりますが味は及第点でした。食堂車が壊滅した現在、テツ的には列車で加熱食品が食べられる機会自体が非常に貴重なのですが、東武としてはこんなインスタントに頼る気は無いようで主要駅で駅弁を販売しており、特急にも季節や土地の個性を出した弁当を積み込んでいます。もっとも春日部発車時点では弁当が売り切れており、売れ残っても保存できる冷凍食品は補助的な商品のようです。

郊外で過密ダイヤを脱したのか「きぬ111号」はスピードを上げます。VVVFインバーターのオールM車という贅沢なスペックを持つスペーシアの本領発揮といったところでしょうか。一駅で降りる下駄感覚の乗客もいますが、観光客で座席が半分近く埋まっており乗車率は平日昼間にしては健闘しています。

12時39分に下今市に停車して3分停車。日光行きのシャトル列車(6050系)に接続しています。快速用の6050系や昔の特急の5700系や1700系は2両編成なので日光行きと鬼怒川行きを併結して下今市で分割・併合しています。しかし現在の東武の優等列車は固定編成の編成美にこだわっており、時間帯によっては目的地への直通がなく下今市乗換えが必要で不便です。支線直通が多い「りょうもう」なんかも分割・併合のメリットは大きいと思うのですが。

下今市から鬼怒川線に入るが、元軽便鉄道のためスピードが大幅に落ちる。マイカーへの対抗上地道な改良を望む。市町村合併の影響で、日光に行かないつもりがずっと日光市内である。13時02分に鬼怒川温泉駅に到着。隣に停車している普通列車に乗り込むとすぐ発車する。さっきも乗った6050系で鬼怒川の温泉街を眺める。以前停まったホテルはどこだったっけ? 13時01分に鬼怒川公園駅に到着。列車本数が多いわけではないのになぜ跨線橋の上り下りが必要な3番線に停まるのだろうか? この駅も温泉街にあるのに特急は手前の鬼怒川温泉駅折り返しばかりで少々不便である。

いくら乗り鉄でおすぐに戻るのは味気ないし、かといってまともに観光する時間もない、せめて温泉に入ろうと思って「日光市営鬼怒川公園岩風呂」に向かう。日帰り入浴を受け付けるホテルもあるが食事つきのご休憩プランがメインだし、入浴するだけなら公営の公衆浴場が気楽でいい。

陸橋で東武線を越え、ちょうど駅の裏手にある鬼怒川公園内をあるくと浴場が見えてきた。500円を払って中に入る。

内部は大浴場の奥に露天風呂があるだけのシンプルなものだが温泉の雰囲気はよく出ている。ゆっくり入浴した後、座敷の休憩室でしばらくくつろぐ。休憩室は食堂も兼ねていたが、観光地価格だし食事の時間でもないので自販機でフルーツ牛乳を買うだけにする。

帰りの電車の時刻が近づいたので駅に戻る。自動券売機で鬼怒川温泉駅からの特急券を購入し、Suicaにチャージする。Suica/PASMOではJR直通特急に乗れないとの案内があるが、会社内列車なら大丈夫らしい。また6050系に一駅乗車して鬼怒川温泉駅から「きぬ128号」に乗り込む。

日光方面接続の下今市では私鉄では珍しく駅弁の立ち売りをやっていたが、まだ15時過ぎなのでパス。午後になると眠くなってきたのが、スペーシアの座席は寝心地がいい。終点浅草には16時45分に到着。

地下鉄で上野に戻りコインロッカーの荷物を出す。東海道新幹線に乗るため京浜東北線で東京へ。E233系には初めて乗るが、車内は以前乗ったことのある209系とあまり変わらない気がする。ところでスペーシアから東海道新幹線への乗り換えだが、今回の上野経由のほか、JR直通列車で新宿から山手線で品川、あるいは浅草から都営地下鉄で品川へ行く方法が考えられる。

東京駅から東海道新幹線で神戸に帰るが、ここで注意点が一つ。新大阪など新幹線と在来線で会社の異なる駅はコンコースで売ってる駅弁も異なる(それぞれJR傘下の業者が販売しているため、但し新横浜は在来線の駅が小さく東日本系業者がいない。)。「深川めし」など東京駅の有名駅弁はJR東日本傘下のNREが販売しており東海道新幹線の改札内では売っていないのであらかじめ在来線コンコースの駅弁屋に行く必要がある(東海系業者も独自の駅弁を売っているがイマイチ魅力に欠ける)。京浜東北線ホームから下りると「旨囲門」が見えたので入ってみる。一番欲しかった「東京弁当」は売り切れていたが、東京駅以外にもJR東日本管内の人気駅弁を多数集めているのでじっくり選んでみる。結局米沢駅の「牛肉どまん中」を購入。


新幹線改札前のピクトグラム。東海道新幹線が700系なのになぜ東北は200系?
(実は緑の0系らしい…って余計おかしいわ!)
E2系はないのか?

17時50分発の「のぞみ59号」に乗るが、車内清掃のためホームでかなり待たされた。だから入線時刻じゃなくて乗り込める時刻を案内しろっつーの。車両は先月も乗ったN700系。デッキのプレートからJR西日本所有のN編成であることがわかる。西日本独自仕様が多い700系(ギア比が違う、台車が500系のもの、見た目は運転席横のロゴがアクセント)と違いN700系はメカニック面もデザイン面も全く同じと聞いていたが、車内放送用メロディは「トワイライトエクスプレス」でも使われている西日本の曲「いい日旅立ち」である。このメロディの設定は東海の車掌でもいじれないらしい。

平日の夕方だからビジネスマンで満席と思っていたが、新横浜を出ても意外と空席がある。私の席はC席だったが隣のB席は誰も座らなかった。混むのは金曜だけなのか、それともピークが18時以降なのか。さっそく「牛肉どまん中」を広げる。ご飯の上に載っている牛すき焼き肉のボリュームがあって大満足。数年前に東海道新幹線に乗ったときは複数の車販クルーがおみやげやらアイスクリームやらを持ってうるさく巡回していたのだが、今回は編成前半担当と後半担当が1人ずつワゴンを押してまわるシンプルな形態である。しかし私を含め乗車時に駅弁を買う者が多くあまり売れていないようである。

N700系の車内でのんびり過ごす。客室入口ドア上にある車内案内表示器では新聞社ニュースでチリの落盤事故で救出作業が順調に進んでいることを伝えていた。20時26分に新大阪に到着。ここから快速に乗り換える。神戸市内在住でも東海道線沿線だと新神戸駅は使わない。

3日間駆け足の乗り鉄だったが、「トワイライトエクスプレス」「北斗星」の両方に乗ることができ、他にも乗りたい列車に乗れて満足できる旅だった。次の予定というと…この前の餘部鉄橋と同じルートで287系「こうのとり」と新餘部橋、189系「はまかぜ」でも試してみようか?

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